「運命の奴隷」それが私たちが歩んでいる道なのかも…胃癌ステージ4を妻に持つ男

「我々はみんな運命の奴隷なんだよ」この言葉は、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」第5部の最終話に登場する彫刻家「スコリッピ」が主人公「ジョルノ」の仲間「ミスタ」に向かって語ったセリフです。

さらにスコリッピは続けて「あのミケランジェロが言った言葉がある『わたしは大理石を彫刻する時…着想を持たない…。「石」自体がすでに彫るべき形の限界を定めているからだ…。わたしの手は、その形を石の中から取り出してやるだけなのだ』…と」




運命の岐路は何処にあるのかわからない


運命には、その時々で「岐路」があるのではと考えます。しかし、その時はそれが何処なのかはわかりません。それは、後になって気づくものなのかもしれません。

私たち家族は、小学校が2つと中学校が1つの地方都市のそのまた地方の小さな街で暮らしています。子供を育てるには適した環境ではあるのですが、時にそういった環境が「良し」とならない場合もあります。

地元の病院で妻が胃の不調を訴えてから、まず最初に行った細胞診の結果とこれからの治療について先生から呼び出された私たちは、仕事休みとなる平日に「○○医院」を訪れることになりました。

その「○○医院」は、地元では名医として知られ多くの患者さんが来院されます。受付を済ませた私たちは、子供が通っていた隣町のドッチボールクラブの仲の良い保護者のお母さんと待合室で顔を合わせてしまいます。

妻はどう思ったのかはわかりませんが、この時私は「あ〜ぁ」と思ってしまったのです。これがまず1つ目。次に「○○医院」の先生から胃癌だと思うから大きい病院に行って治療しようということで、今の病院へ行くことになるのですが2つ目の「あ〜ぁ」がここで起こります。

「○○医院」からの紹介状を持って訪れた国立のその大病院は、専門毎に細かな診療項目が設けられています。消化器内科を訪れた私たちは予約の確認と診察のために受付を訪れますが、その受付に居たのがまたしてもドッチボールクラブの保護者さんでした。

この保護者さんは別の病院勤務だと思っていたのですが、勤務条件が良いので最近移動してきたとのことでした。そして、この保護者さんは長年の経験から妻の状態をある程度理解されたのだと思います。

私は、その人が歩む道は決まっていると考えます。なので、「あ〜ぁ」と思うような場面でも自分から、その道を外れようとも思わないのです。妻も同じような考えを持っているのかもしれません。この時の私たちには、すべてを受け入れようと思っていたのだと思います。




抗がん剤治療は患者本人の意思の強さが影響する


時に残酷な「運命」は、その一端を私の妻に知らせてから1年以上が経過しています。特に、抗がん剤治療は本人はもちろん、家族をも疲弊させます。

抗がん剤治療は一定のサイクルで「投薬」か「点滴」もしくはその両方が行われますが、妻の場合は両方を一定のサイクルで2クール(1年間)行うことが決定していました。

「点滴」での抗がん剤治療は、その副作用のために対策を行って治療が行われるみたいです。なので、一般的に思われているような点滴での抗がん剤治療の強烈な副作用のイメージとは少し違うようです。

妻の場合は、経口薬の抗がん剤の副作用に苦しみました。食感と味覚の変化、さらに胃を全て失った彼女は口からの食事が満足にできません。また、彼女が食べられるものが日によって違うために、毎日の食事の世話をする私もモチベーションの維持が難しくなります。

仕事終わりで自宅へ帰っても、ベットに横になっているだけの彼女を見るのは心が折れかけます。自力で歩く事ができない彼女を抱えて体を洗ってやる時には特にその想いを強くします。この状態の彼女に、元気になった姿の彼女が思い描けないのです。

1年間の抗がん剤治療を終えて私が思うことは、抗がん剤治療は患者本人の意思が大きく関わってくるということです。抗がん剤治療中は先生曰く、発熱や体力の急激な衰えなどで、薬が効いているのに中止しなければならなくなる場合が本当に多いのだそうです。

幸いなことに妻の場合は一時中断はあったものの、予定されたすべての治療を検査結果も問題なく終えることができました。途中、先生から「もうやめましょうか?」と聞かれても、「いえ、予定されていることはすべてやります」と答える彼女を見て、まずは患者の意思の強さが強く影響すると私には思えるのです。

「眠れる奴隷」であることを…


冒頭のスコリッピはミスタ達が歩くその後ろ姿を眺めながら、呟くように次のような言葉を吐き出します。

「彼らがこれから歩む『苦難の道』には何か意味があるのかもしれない…。彼らの苦難が…どこかの誰かに希望として伝わって行くような、何か大いなる意味となる始まりなのかもしれない…。無事を祈ってはやれないが、彼らが『眠れる奴隷』であることを祈ろう…」

漫画やアニメは、時に人生にとって重要なヒントや気づきを与えてくれることがあります。私は運命というものを信じています。しかし、その運命というものは誰にもわかりません。そうだからこそ、人生は素晴らしいものだと思っています。

妻の運命は彼女自身もわからないし、夫である私にも当然ですがわかりません。しかし、今の彼女が「眠れる奴隷」であることを願っています。もうしばらく、眠ったままで…目覚めない「眠れる奴隷」でいる彼女の運命を…。




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